ちょっと茶の間に小説でも
素直に自分の人生を生きていないのは 一体どっちだって言うんだ。 まったく成熟しきっていない 悲痛な泣き顔の上に 欺瞞に満ちた笑顔の仮面を被って 踊り狂っているのは 一体誰だっていうんだ。 素直になれだって? 素直に生きれていないのは 真実が見えてい…
教祖は、偉大な方だ。 それは、わかっていた。 けれど、教祖は ひどく独善的で あまりにも能力が高すぎた。 わたしは、もう疲れた。 もうついていけない、そう思った。 教義の本当の教えは それそれの人が、それぞれの幸せを見つけて その幸せのために生きて…
自分の存在に対して不信感があるから 誰かに愛されることによって 自分の存在を証明しようとしているのでしょう。 自分は誰か一人に必要とされている。 誰かの幸せになっている。求められている。 存在を受け容れられている。 そう思いたいがために 「この**…
『――に支配され、一度は――を……い傷つけまでした私が このようなことを祈るのさえおこがましいことかもしれませんが どうか――が救われますように、どうか――を守ってくださいますように』 そのときから怒りと嫉妬に包まれた……は歌になった。 何度も怒りと祈り…
「おまじない……?」 思わず聞き返した声は、鼻水でぐずぐすとしていた。 赤髪の少年は、打ち捨てられた本を拾い上げると無言で手渡してきた。 「ちゃんと効いたでしょ。ピンチになったら助け船」 自分の額を指さした少年を見て、●●は先日受けた熱を思い出し…
燃えるような赤髪。 猫のような緑色の瞳。 出会ったときはつかめない笑顔を浮かべていた口元は 不機嫌そうに歪んでいた。 ――あのとき助けてくれた男の子。 そう気づいた瞬間 色をなくしはじめていた瞳に、光が灯る。 赤髪の少年の手は、書籍を奪い去った女の…
「不適合者(アヌマギア)のくせに 適合者(マギア)と同じ往来を歩かないでくれる?」 ああ、今日は本当に厄日なのかもしれない。 三人の可愛らしい けれど残酷で歪んだ笑顔を浮かべた少女たちを前に ●●は絶望にも似たあきらめを覚えた。 また、黒装束の男…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇ ぱしゃり、と●●は顔にお湯をかぶった。 湯船につかった、手先、ひざがじくじくと痛む。 昼間、謎の黒装束の男に襲われ 地面にたたきつけられたときに身体に擦り傷をつくったようだ。 ……擦り傷程度ですんでよかったと思うべきなのだろうか。 あの男…
何が起こったのか、とっさにわからなかった。 砂利に叩きつけられた痛みが襲いかかってくる。 視線を横にすべらせ、目に移ったのは――。 黒髪に、黒曜石の瞳。黒装束。 そして、木漏れ日に照らされ鈍く光る刃。 「痛い思いをしたくなければ大人しくついてこい…
早く終わらないかな。 帰ったらおやつを食べて、遊ぼう。 神聖な巨大樹の前であくびを噛み殺すほどには 幼すぎるほどに幼く、呑気にかまえていた。 ――選定の儀に失敗したと、気がつくまでは。 はじめ、何が起こったのかわからなかった。 ざわつく周りの大人…