ちょっと茶の間に小説でも

『サンピエストロ王宮』―革命前夜― とある……による道化戯曲

素直に自分の人生を生きていないのは 一体どっちだって言うんだ。 まったく成熟しきっていない 悲痛な泣き顔の上に 欺瞞に満ちた笑顔の仮面を被って 踊り狂っているのは 一体誰だっていうんだ。 素直になれだって? 素直に生きれていないのは 真実が見えてい…

「アリア放浪記」背徳のルチア

教祖は、偉大な方だ。 それは、わかっていた。 けれど、教祖は ひどく独善的で あまりにも能力が高すぎた。 わたしは、もう疲れた。 もうついていけない、そう思った。 教義の本当の教えは それそれの人が、それぞれの幸せを見つけて その幸せのために生きて…

『聖マリアナ協会 遺体安置所』とある……の嘆き

自分の存在に対して不信感があるから 誰かに愛されることによって 自分の存在を証明しようとしているのでしょう。 自分は誰か一人に必要とされている。 誰かの幸せになっている。求められている。 存在を受け容れられている。 そう思いたいがために 「この**…

サンタルチアの祈り

『――に支配され、一度は――を……い傷つけまでした私が このようなことを祈るのさえおこがましいことかもしれませんが どうか――が救われますように、どうか――を守ってくださいますように』 そのときから怒りと嫉妬に包まれた……は歌になった。 何度も怒りと祈り…

オルタナ~神に選ばれなかった存在~-6-

「おまじない……?」 思わず聞き返した声は、鼻水でぐずぐすとしていた。 赤髪の少年は、打ち捨てられた本を拾い上げると無言で手渡してきた。 「ちゃんと効いたでしょ。ピンチになったら助け船」 自分の額を指さした少年を見て、●●は先日受けた熱を思い出し…

オルタナ~神に選ばれなかった存在~-5-

燃えるような赤髪。 猫のような緑色の瞳。 出会ったときはつかめない笑顔を浮かべていた口元は 不機嫌そうに歪んでいた。 ――あのとき助けてくれた男の子。 そう気づいた瞬間 色をなくしはじめていた瞳に、光が灯る。 赤髪の少年の手は、書籍を奪い去った女の…

オルタナ~神に選ばれなかった存在~-4-

「不適合者(アヌマギア)のくせに 適合者(マギア)と同じ往来を歩かないでくれる?」 ああ、今日は本当に厄日なのかもしれない。 三人の可愛らしい けれど残酷で歪んだ笑顔を浮かべた少女たちを前に ●●は絶望にも似たあきらめを覚えた。 また、黒装束の男…

オルタナ~神に選ばれなかった者~-3-

◇◆◇◆◇◆◇◆◇ ぱしゃり、と●●は顔にお湯をかぶった。 湯船につかった、手先、ひざがじくじくと痛む。 昼間、謎の黒装束の男に襲われ 地面にたたきつけられたときに身体に擦り傷をつくったようだ。 ……擦り傷程度ですんでよかったと思うべきなのだろうか。 あの男…

オルタナ~神に選ばれなかった者~-2-

何が起こったのか、とっさにわからなかった。 砂利に叩きつけられた痛みが襲いかかってくる。 視線を横にすべらせ、目に移ったのは――。 黒髪に、黒曜石の瞳。黒装束。 そして、木漏れ日に照らされ鈍く光る刃。 「痛い思いをしたくなければ大人しくついてこい…

オルタナ~神に選ばれなかった者~-1-

早く終わらないかな。 帰ったらおやつを食べて、遊ぼう。 神聖な巨大樹の前であくびを噛み殺すほどには 幼すぎるほどに幼く、呑気にかまえていた。 ――選定の儀に失敗したと、気がつくまでは。 はじめ、何が起こったのかわからなかった。 ざわつく周りの大人…