オルタナ~神に選ばれなかった存在~-6-
「おまじない……?」
思わず聞き返した声は、鼻水でぐずぐすとしていた。
赤髪の少年は、打ち捨てられた本を拾い上げると無言で手渡してきた。
「ちゃんと効いたでしょ。ピンチになったら助け船」
自分の額を指さした少年を見て、●●は先日受けた熱を思い出した。
赤髪の少年は、猫のようにつかめない笑顔を浮かべていた。
「どうしたって、どうしたって、と天に問いかけても
不適合者(アヌマギア)だからという理由しかない」
目を閉じ歌うように呟いた少年の言葉に、ぴくりとまぶたが動く。
「この世は分断されている。違いがあるかぎり、人の意識は引っ張られる。
どれだけの正論を並べようと、理屈を並べようと、通じ合えない。
この世の不条理はいつだって変わらない。
マイノリティはマジョリティに圧倒される。
人の意識はマジョリティの声に引っ張られる。
真実を知る少数派であることに誇りを持ちながら
大多数に理解されず淘汰される苦しみに耐えるのもまた難し」
瞬間的に意味を拾えなかったにもかかわらず
少年の口から紡がれる言葉が胸を突き刺した。
「けれどまた、生まれ持った不条理が我らを結び付けたのもまた事実」
すっ、と目を開けた少年はまっすぐにこちらを見つめてきた。
いつか見た、翠色の宝石に似た瞳。
「――君が不適合者(アヌマギア)で俺が適合者(マギア)でなかったならば
俺たちはきっと出会わなかった。
不適合者(アヌマギア)である事実は、きっとこの先も君を傷つけるだろうとわかってはいるんだけどね」
少年が一歩ぐい、と近づいてきたので、思わず後ずさった。
目前に差した影に思わず目を閉じる。
「サクリフィスにどうかご加護を」
木肌のロッドの硬さが、額にこつりと当たった。
目を開けたときには、少年の姿は消えていた。