『サンピエストロ王宮』―革命前夜― とある……による道化戯曲

素直に自分の人生を生きていないのは

一体どっちだって言うんだ。

 

まったく成熟しきっていない

悲痛な泣き顔の上に

欺瞞に満ちた笑顔の仮面を被って

踊り狂っているのは

一体誰だっていうんだ。

 

素直になれだって?

素直に生きれていないのは

真実が見えていないのは

一体誰だって言うんだ。

 

この俺のことだと。

 

道化者の俺に対して

道化を演じるのはやめろだと?

それこそ滑稽な話だ。

 

俺の原色は道化者。

何者にもなれないから

何者にだってなれる。

何色にだって染まれる。

 

俺なんてあってないものだ。

ない俺を探し当てて俺の人生を生きろだって?

それこそ無理難題だ。

答えのないものにどうやって染まれって言うんだ。

 

素直になれず

他人の仮面を被りながら踊り狂う

道化者の人生を歩んでいるのは

一体誰だって言うんだ。

 

 

他人の足枷のついた仮面を被りながら

ひいこらして

称賛の舞台を渇望してやまない

愚か者は誰だって言うんだ。

 

 

世界に自分の居場所がない?

自分で殺し続けているだけだというのに。

 

 

赤子のように

そこに存在するだけでいいんだ。

ありのままの自分でいいんだ。

 

そうやって受け入れて

抱きしめてほしいと願っているのは

どこのどいつだって言うんだ。

 

そう思っているくせに

自分で自分に嘘をついて

 

がんばらない自分はだめ。

成果を出さない自分はだめ。

お勉強できない自分はだめ。

 

そうやって自分の首をしめて

休息の時間すら窒息しかけている

死にかけの魚は一体誰だっていうんだ。 

 

できるようになったら

世界から愛されるようになるとでも?

 

お前の親は

お前ができたところで、できないところで

昨日から今日にいたるまで

微動だにしやしないぞ。

 

お前が憎しみながら渇望してやまない存在は

お前がいくらがんばったところで

微動だにしやしないぞ。

 

 世界という名のマリアは

お前の母親そのものだろう。

 

鼻くそほどの一瞬の称賛がほしいとでも言うのか?

 

そんなことのために

お前の人生すべてをかけるのか?

 

赤子のまま、成熟しないまま

世界の中で踊り狂いたいのか?

 

いくら成熟の仮面をつけたところで

お前の幼さは露呈しているぞ。

 

赤子に大人のワルツを踊らせるなんて

なんとも残虐な行為をさせるじゃないか。

 

その手足は血豆だらけになって

いまにもちぎれんばかりだというのに。

 

自分で自分のその姿に気がついていないのか?

 

滑稽だ。滑稽だ。滑稽だな。

 

鏡でも見せてやろうか?

 

いいや、鏡をいくら見せたところで

わかりやしないだろうな。

 

お前の周りは

いつだって血まみれ道化(ピエロ)だらけだ。

 

いくら心の声がお前の胸をノックしたところで

真実に気づきやしないだろう。

 

真実を焼き切る早さで

血まみれ道化(ピエロ)どもは行進していく。

 

自分も踊らなきゃ

無観客のゴミしか残っていない廃墟の舞台に

取り残されちまう。

 

そう恐怖に打ち震える自分を押し殺しながら

毎晩、毎夜、欺瞞の笑顔を張りつけて踊り狂っていく。

 

日の当たる時間すら

お前にとっては地獄のような暗さで光るだろう。

 

朝も昼も夜も関係ないくらいに

道化の仮面をかぶって手足から血が噴き出るくらいに

踊り狂わないと気が狂いそうだろう。

 

血まみれ道化(ピエロ)に囲まれ続けたら

自分も血まみれになるほどに踊り狂わなければ

やっていけないだろう。

 

酒をあびるように

欺瞞に満ちたダンスを踊り狂って

そうやって時間をやりすごしているんだろう。

 

夜明け前は暗い?

 

だからその血まみれの手足も耐えきれると

本気でそう思っているのか。

 

夜明け前も何も

お前はいつだって

自分で自分の目を覆っているというのに。

 

目隠し道化(ピエロ)に

朝も昼も夜も、夜更けも夜明けも

関係ないだろうよ。

 

いつだって心の一部は

夜の薄暗さに沈んでいるんだろう。

 

どれだけの人間に囲まれても

女も男も関係なく漁りつくしても

心の一部はいつだって乾いたままだろう。

 

自分の血染めの手足で

握りつぶすように自分の心を抱きしめれば

その乾きが癒せるとでも思っているのか。

 

 

俺は自分を血で染めるのは

もうごめんだね。

 

踊るときは

自分の意思で踊る。

 

夜は寝るものさ。

 

王命だって

かまうものか。

 

俺の王は、もう死んだんだ。

 

いいや違う。

生きながら俺に命を明け渡してくれた。

 

もう存在しもしない

王命に振り回されて

踊り狂う滑稽な道化(ピエロ)にはならない。

 

 

だから俺はきっと明日

処刑されるだろう。

 

うまく道化を演じれば

明日の民衆にまぎれて

逃れられるやもしれないけれど。

 

誰にも

俺の明日の人生の答えなど

わかりはしない。

 

 

『サンピエストロ王宮』

―革命前夜― 道化者による戯曲